大判例

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福岡高等裁判所 昭和26年(う)3687号 判決

欺罔行為は必ずしも積極的に虚偽の事実を告知することを要しない。相手方の錯誤を利用する不作為によつても成立する。然しこの場合は法律上作為義務のあることを必要とする。原判示第一の事実によると被告人は昭和二十四年三月頃から長崎市浜町で建築材料販売業を営んでいたが事業不振の結果負債返済に窮し同二十五年三月頃社員及び工員等九名の使用人全員を解雇して事業を縮少し同月頃から左記取引までの間右事業上発行した被告人振出の約束手形等も数回に亘り不渡となつた等特別の事情があつたので右特別の事情は少くとも掛買等の場合之を商業取引の相手方に告知しなければならないのに不拘たまたま判示の商店からセメントの購買方の交渉を受くるや右事情を沈黙してこれを右商店に告ぐることなく判示のような取引してセメントを騙取したとしている。即ち原判決は被告人に判示したような事実を告知する法律上の義務があるに不拘これを相手に告知しなかつた不作為を以て欺罔行為があつたとしている。然し記録による本件取引の経過その他諸般の事情に徴して被告人に判示のような法律上の作為義務ありとは認め難い。なお被告人に欺罔行為があつたとして詐欺の刑責を負わしめるためには被告人が右特別事情を告知しなかつたというだけでは未だ足らない。被告人に欺罔意思即ち相手方の右特別事情を知らないその錯誤を利用し代金支払の意思或は能力がないのに不拘右特別事情の不告知という不作為のあつたことを要し、その旨判示しなければ詐欺の罪となるべき事実の示し方としては不充分である。結局原判示の第一の事実は刑事訴訟法第三百七十八条第四号の判決に理由を附していないということになる。論旨は理由があり原判決は既にこの点において破棄を免れない。

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